内容にもよりますが、取材にかかる時間は、だいたい、30分から1時間前後という場合が多いものです。お話をお聞きして、店内、外観、スタッフさん、お料理のお写真を撮らせていただいて…としていると、1時間はあっという間です。こんなにあれこれお聞きしてお時間を割いていただいても、実際の誌面での掲載スペースがほんの小さなものになってしまったら…、という不安も常にあり、できれば取材時間は短く簡潔に済ませたいというのは、いつも思うことではあります。
とはいえ、どんなに短時間であれ、相手の方が伝えたいと思ってくださっていることをきちんとお聞きし、読者の方に伝えられる形にできなければ本末転倒ですから、そこはやはり難しいところなのだと思います。
実は、私がライターの仕事を始めたころ、取材に行って4時間近く居座ってしまったことがあります。なんでそんなに時間がかかったのか、今思い出してもまったくわかりません。うかがった先は、すすきの駅のそば、ご夫婦で経営されている、ビルの2階にある小さなビストロ。その時の取材メモには「おうちに家庭菜園、ハーブ、自転車、多忙」「ご主人とマダム、新婚時代、こたつでみかん」「ただ正直に。一生懸命」とか、よくこれで原稿が書けたものだと思うような断片的な単語の殴り書きが10数ページに渡って続いています。
あんなに長い時間居座られたら、その後の仕込みやら開店準備やら何やら予定がすべて狂って、さぞ困られただろうなあと、帰り道、とても落ち込んだことを覚えています。
でも、その後、マダムから届いたのは「イシワタリさんが真剣に一生懸命取材している姿を見て、また、いろいろな質問に答えながら、自分たちの原点を思い出しました。今後について、迷いもあったのだけれど、もう一度原点に戻って頑張ってみようと、シェフと二人で話し合いました。ありがとうございました」と書かれたとても温かいメールでした。
申し訳なさと、ありがたさと…。
その後も折に触れ温かいお便りをいただき、子どもたちとお店におじゃましたときにもとても親切にしていただいたり、私にとって「大切な隠れ家」のようなお店になりました。
ですが、先週末、そのマダムから届いたのは「引退のお知らせ」のハガキでした。あのお二人らしい、温かさいっぱいの文面に、なんと言えばよいのか、言葉もないのですが…。
閉店まであと1ヶ月。それまでに一度はぜひ伺おうと思います。そして、一日も早くまた「心機一転、今度はここで頑張ります!」と新規開店の連絡が届きますように。
Bistrot poele(ビストロ ポワル) 札幌市中央区南4条西3丁目第2グリーンビル2階 電話番号:011・530・0311 営業時間:18:00〜23:00(できる限り予約を) 定休日:日曜、第1・3月曜、祝日 http://www.h5.dion.ne.jp/~sakai-t/
(ひろみ)
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あっという間に6月も下旬に突入しました。 HO次号の発売日ももうまもなくです。
今回も、取材を通し何人もの素晴らしい人に出会い たくさんの心に残るお話を聞かせていただけましたが その中でも強く印象に残っているのが、南富良野の山奥で、 木のおもちゃ作りをしている岡田亘さんという方でした。
岡田さんのおもちゃは、丸くて愛らしいフォルムが 特徴で、なめらかで手触りがすばらしい。 手にした時には、「心地よい」という言葉が 一番しっくりくるような、そんなおもちゃです。
岡田さんは、自分は「手の記憶」「五感の記憶」ということを とても大切に考えているんですよ、と言い、 「持ったときの感覚を、いつまでも手が覚えているような、 おもちゃを作りたい。将来、大人になって このおもちゃのことを忘れても、 帰省時か何かに、ふとこのおもちゃを手にしたときに 『ああ、自分はこの感覚を知っている』と思い出して もらえるような、そんな、体に記憶が刻まれるような おもちゃを作っていきたいんです」と話してくれました。
手の記憶。耳に残る記憶。目の奥に焼き付けられた記憶。 どれもとてもよくわかる感覚のように思います。
岡田さんのおっしゃりたかったこととは 少々ずれているとは思いますが、 この話を聞きながら、高校時代に友人がノートに 書き留めてくれたある詩を思い出していました。
それは安浪雄嗣さんという人の詩で、 詩集はだいぶ前にすでに品切重版未定となっています。
安浪さんの詩もそうですが、 数多くの素晴らしい作品が使い捨てのように市場から消え、 子どもたちに伝えることができない状態であるのは とても残念なことです。
以前、書籍制作に携わっていたときには、 よく考えていたことではあったのですが、 雑誌という、基本的に増刷はなく売り切れればそれっきり、 という世界にいるうちに、いつしか当たり前のような感覚に なってしまい、何年も深くは考えずにいたことでした。
貴重なことを思い出させていただいたと感謝しています。
手のひら (作・安浪雄嗣)
会っているあいだは 何も知らなかった そばにいるのが こんなに こんなに大事な人だと
手のひらだけが知っていて 手のひらだけが たしかに感じていた
別れの駅で握手するあいだ ふれているのが こんなに こんなにやさしい 人の心だと
▲作りかけの岡田さんの作品です。6月25日発売のHOにくわしく、岡田さんのことやその作品が掲載されています。ぜひご覧になってみてください!
(ひろみ) |
今年も残りあと2週間。 札幌では突然の、でも、例年になく遅い雪景色となりました。
来たる25日、なんと「HOの別冊」が発行されます。
いつもは北海道全域の情報をくまなく取材するのがHOのHOたる所以でありますが、この別冊では、札幌市内よりすぐりの店を集めた1冊となっています。
今回は、取材をしていても特に印象に残る、本当によいお店ばかりでした。編集部員の私が言うのもなんですが、これでこの値段(780円)はかなりお得なんでは…という出来に仕上がっていると思います。
中にでも忘れられない1軒が厚別区の、「B●●−●●●●A」という中華料理屋さんです。
ご主人は、小樽ヒルトンをはじめあちこちの名ホテルで料理長を務めた人物。「料理長」「独立」の間で迷いながらこれまでの人生を歩んできたし、これからも迷うのかな、なんて話を聞かせてくれました。誌面には書ききれませんでしたが、以前は白石区菊水で「き楽」(「き」は「喜」を横に2つ重ねた字)を営んでおり、大泉洋はじめ芸能人も多く訪れる店だったといいますから、ご存じの方も多いのでは? 再独立にあたって御主人は同じ店名にしたかったらしいのですが、ご家族の希望で現在の店名は愛犬の名前と、なんともお茶目な御家族です。
取材を申し込んだところ、実は最初、おっかない声で「なんでうちの店を選んだの?うちの店きたことあるの?」と聞かれ、ひきつり声で「ありません、ごめんなさい。あれこれ聞き込みの結果とても評判がよかったから…」と答えたところ、「ふーん、いいよ」と言いながらも「でもさあ、あなた、雑誌で紹介するのに、まず自分で食べて確かめないの? 人の評判もいいけどさあ」と、しみじみした声で諭され…。大事なことを思い出させていただきました。
翌日のランチタイムにおじゃまし、話してみれば、実に気さくで親切なご主人でした。お昼はバイキングスタイルで、すでに大皿が10皿近く並んでいるにも関わらず、「足りる?これで大丈夫?」と言いながらささっと手際よく料理を作り、1皿追加してくださったり。
編集作業中、原稿確認のためFAXを送ろうとしたのですが不調でなかなか送れず、帰宅がてらお店にお届けに寄ったときのことは忘れられません。札幌に雪が積もった寒い夜、時刻は12:30を回っていました。10時閉店の店にまだ灯りがともっているのです。「ごめんください」と声をかけると、おそらく暖房を切っていたのでしょう、コートを着込んだご主人が中で一人で晩御飯を食べていました。「こんな時間に?」と聞くと「いつもこんなもんですよ」とこともなげ。帰宅は1時すぎ、朝は7時にはお店へ。それでも、料理を作るのが何より好きだからいい、のだそうです。最近仕事に対する情熱が薄れていたなあ、と、反省させていただきました…。
もう1軒、印象に残ったのは「●●ふ」というお店。女性店長さんが一人で営むステキなお店ですが、なぜその店名に?とうかがったところ、「特に意味はないのだけれど、省略されない店名にしたかった。それには3文字が限界。あとは、最後の1音をやさしい響きの音にしたかった」との返事が返ってきました。以前勤めていたお店の名前が比較的長く、どうしても省略されて呼ばれていて、「店長が深い思いをこめて付けた名前なのに…」といつも寂しく思っていたからとの話が、深く心に残ったのでした。
そんなステキなお店が102軒。HO別冊は12月24日の発売です。どうぞよろしくお願いいたします!
(ひろみ)
ブログ内容とまったく関係ありませんが…。会社のそばの駐車場片隅に半月ほど前から袋が捨てられています。中に何が入っているのか…。毎日通るたびに気になって仕方ありません。
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いよいよ本格的に気温が下がってきました。そんな中、HO27号(11月24日発行予定)の編集作業はまっさかり。編集部内は熱気でいっぱいです。
先日、取材のため、小樽・北一硝子さんにおじゃましました。直接の取材対象ではなかったのですが、「テラスでいただけるメニュー」の中にこんなものがありました。
左上にご注目ください! これぞ「冬季限定12段ソフトクリーム(850円)」です。牛乳やイチゴミルク、夕張メロンなど6種類、それぞれ単一の味としても提供しているソフトクリームを、1段ずつ味を変えて「6段ソフトクリーム(500円)」として出したところ、大人気。それならば、と、各味2段にして12段にしたのがこの「12段ソフトクリーム」なのだそうです。
なぜ冬季限定?
それは「冬は気温が下がるから、とけないため、作ることができる」のだそうです。この説明を聞いたとき、なぜだか非常に新鮮で、「感動」に近い気持ちにさえなりました。
6段ソフトは通年の販売ですが、12段ソフトは2月か3月まで、気温を見ながらの限定だそうです。「3〜4人で食べてちょうどいいくらいの量だけれど1人で完食する人も多い」とのこと。テラスはガラス張りで、もちろん暖房も入っています。機会がありましたら、ぜひ挑戦してみてください。
さて、北一硝子さんにおじゃました元々の目的はこちら…。写真は撮影中のカメラマンです。何を取材し、どのような誌面になるかは、HO27号発売までのお楽しみ…♪とさせてくださいね。 (ヒント:ガラスやランプの特集ではありません)
(ひろみ) |
1月に発行したHO「B級グルメ」の号で取材させていただいたお店のなかに、赤平市の「寿司の松川」というお店があります。
炭鉱町・赤平に伝わる味噌仕立て豚ホルモン鍋を「がんがん鍋」と名づけ、町おこしを進める、そのリーダー的存在のお店です。お寿司屋さんではありますが、宴会・食事会での利用や、鍋、定食を目当てに訪れるお客さんも多く、また、思いやりがあって人のためになることに労力を惜しまず、赤平の町とお神輿、ギターを深く愛するご主人の人柄を慕う常連客も多いと聞きました。
取材時にも、「これも食べていきなさい。ほら、これも」と、あれこれお料理を出していただき、またご自身が作詞・歌唱された演歌「サルビア浪漫」のCDを読者プレゼントにもご提供いただき、それは親身にしていただいたのでした。
「このサルビアっていうのはね、JR赤平駅の裏にあるズリ山に、夏になると一面に咲くサルビアのことなの。本当に美しく、見事に咲くんだよ。今は深い雪の下だけれど、ぜひ夏にもう一度見に来てほしいなあ。炭鉱跡のサルビア畑」と、何回もおっしゃってくださったお顔を、今も思い出します。
なのに、忙しさを言い訳に、赤平を訪れることもしないままこの夏が過ぎました。9月の初めに、今回のHOの「ホルモン」特集のために「がんがん鍋の情報を再度掲載させてほしい」と松川さんにお電話をしたところ、電話口に出た奥様は、「ああ、あの時の人ね。あの時はありがとうございました。今回もよろしくお願いします」と穏やかな口調で言ってくださったのですが…。
その後、ふとしたことから、8月末にご主人が急逝されていたことを知りました。なんといえばよいのか、言葉もありませんでした。
昨日、近くまで行く用事ができ、ちょっと足をのばして赤平を訪れてみました。ひんやりした秋風のなか、ご主人がおっしゃっていたズリ山のサルビアはまだまだ元気いっぱい、真っ赤に咲いていました。この景色を「見せたい」と思ってくださったのだなあ、と、申し訳なく、ありがたく、胸がいっぱいになりました。
お店に寄らせていただいたところ、奥様とご長男が1月と変わらない温かさで出迎えてくれました。「あのとき一緒に雑誌に載せていただいた孫。見てください、こんなに大きくなったんですよ」と、可愛いボウヤを抱っこする姿も変わりなく。
盛りは過ぎているのかもしれませんが、赤平のサルビア畑は、色づき始めた周囲の紅葉を背景に鮮やかな美しさです。機会があればぜひ訪れてみてください。
(ひろみ)
※ HO Vol.22 P.78より
寿司の松川 電話:0125・32・3065 赤平市大町1丁目2-16 (やすらい通り) ※店の営業は奥様とご長男とで今まで通りに引き継いでいます。
赤平のズリ山についてはこちら: http://www.sorachi.pref.hokkaido.jp/so-tssak/html/parts/01zuriyama.html |